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コントラスト 06

 河原が入れてくれたカフェ・ラテは随分温くなっていて、それに伴い、繊細に描かれていたラテ・アートもかなり滲んでしまっていた。
 ――もったいない。
 今更酷く申し訳ない心地になり、俺は僅かに視線を落とした。
 いつものことながら、俺も意地を張りすぎたようだ。そう反省するたび、次こそもっと寛容にと思うのに、どうも河原の前だと上手くいかない。
「それならそれで、最初からそう言えよ」
 挙句素直に謝ることもできず、俺は悔し紛れに呟いた。
「お前だって……」
 そんな俺に、河原は一度瞑目し、独りごちるように言う。
「暮科だって、なかなか言わないだろ。だから俺だって、わからないままで……、それがあるから、たまにこうやって将人さんからお前の話聞くと、いやでも色々考えちゃうんだよ」
「……考えちゃうって、何を」
「だから、今回みたいに……こういうのがお前の好みなのかな、とか」
「あ――…、だから」
 その気持ちは嬉しい。嬉しいけど――。
 俺は前髪をぞんざいにかき上げ、そのままくしゃりと緩く掴んだ。吐息混じりに顔を上げると、つられるように河原も目線を上向けた。
「さっきも言ったけど、何が好みとか、そういうのは関係なくて、俺はただお前が俺のためにしてくれたってだけで十分なんだよ」
 これだって、とカップを指差し言い切った。重ねて、「わかったか」と釘を刺す。
「…………」
 束の間の沈黙が流れた。
「――そっか」
 先に口を開いたのは河原だった。
 河原は肩身が狭いように僅かに俯き、苦笑混じりに言った。
「ごめん、なんか俺、ホントいちいち言ってもらわないと解んないみたいで」
「そんなのいまに始まったことじゃねぇから気にしてねぇよ」
 揶揄混じりに即答すると、河原は気恥ずかしそうに小さく笑った。



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2010.12.04