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コントラスト 05

 俺は空笑いに瞳を眇めた。
「……マジで?」
 聞くまでもないのはわかっていたが、あえて責めるように河原の顔を覗き込んだ。河原は僅かに身を引き、おずおずと頷く。
 俺は持っていた煙草を灰皿に押し付け、無言で河原の手の中からアイスコーヒーのグラスを取り上げた。それをテーブルの上に置き、更に追い詰めるように間合いを削ると、一つ静かに息を吸い込む。そうして、
「俺が喜んだのは、あくまでもこれをお前が俺のために作ってくれたと思ったからであって、デザイン云々が好みだとかそういう話じゃねぇよ。そもそも見城が俺のことよく知ってるとか……そんなのもお前の思い込みだし、て言うか、いまはお前が一番俺のことよくわかってるはずだろ」
 一気にまくし立てれば、河原は面食らったように動きを止めた。
「違うのかよ」
 凍りついた河原に、幾分語気を強めて念を押す。一拍ののち、河原は慌てて口を開き、
「や、だって将人さんに比べたらっ……」
「比べてもお前の方が上だっての。つか、なんでいちいち比べんだよ」
「それはだって……」
 そう言って少しだけ顔を赤らめた。
 めずらしい。らしくなく河原が照れている。
「だってなんだよ」
 問い返すと、いっそう困った風に視線が揺れた。
「だって……俺もやっぱ、気になるから」
「気になる?」
「そう思ってんのが、自分だけだったら、とか……。そうだとしたら、何か悔しいな、とか。普通思うだろ、普通……それくらい」
 酷く言いにくそうに、それでも河原は素直に答えた。その言葉に、俺は一瞬言葉をなくす。
 怒るほどではないものの、どこかじれったく感じていた気持ちが、たちまち薄れていくのがわかった。
 これだから計算のできないヤツは困る。言わせておいてなんだが、そんな返答、思っていてもなかなか口に出せるものじゃない。
 特に俺の知る河原は、お世辞にも思慮深いとは言えない――よく言えば純粋、言い方を変えれば天然と言えるような性質なのだ。それがそこまで考えていてくれたというだけで嘘みたいだと思うのに。
「――…」
 俺は沈黙したまま、テーブルの上に置かれたカップに目を遣った。



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2010.11.25