Entry

それも一つの 06*

「相変わらず、ルイの肌は綺麗だね」
「そう言う……貴方の口ぶりも変わっていないな」
 陽が完全に落ちて、いくら夜景が見頃になっても。
 一度として窓際に佇むことなく、俺は未だソファの上にいた。
「ん……」
 触れ合う素肌に伝わる体温が心地いい。俺は彼の首へとまわした腕に一層力をこめた。
 俺が手を伸ばせば、彼はそれを拒まない。知っていて俺はそれを利用している。
 とは言え彼だって、一度火がつけばその様は案外情熱的だ。目に付くサディスティックな面はないけれど、場合によっては本当に求められているのではないかと錯覚させるほど、欲情に駆られた抱き方をすることもある。
 そのたび俺が、どれだけ自分に勘違いするなと言い聞かせているか――。
(貴方は考えたこともないだろうな)
 達したばかりの身体をぐったりと弛緩させながら、俺はそんな止め処ないことをぼんやり思う。
「悪い……久々の所為か、すぐには終われそうにない」
「え、あ……っ待……!」
 が、その思考を阻むかのように、抽挿がすぐに再開される。
 余韻に震えていた内腿が、引き攣ったように張り詰める。逃げたいように身を捩ると、すぐに引き戻すように下肢を抱え込まれた。必然と、一層繋がりは深くなる。
「待っ……ぁ……っ」
 こんな風に、身体ばかりを求められ過ぎるのは正直辛いと思うこともあった。そこに気持ちが伴っているなら話は別だが、彼と俺との関係にそれはないのだ。
 なのに――、
(だめだ、愛しい……どうあっても貴方が好きだ)
 やはり俺には抗えない。ともすれば、それすら享受したいと考えている。
 成り行きとは言え、半年以上の時間を置いても何も変わっていなかった。簡単には会えないほどの距離を置いても、結局何の進歩もない。
 貴方が欲しくて堪らない。心が無理なら身体だけでも欲しい。
 込み上げた情動に、涙がこぼれる。生理的なものに混じって、幾筋も頬に線を描く。
「んっ……ぅ……、ぁあ……っ」
 彼が腰を律動させると、静謐な室内に淫猥な音が何度も響いた。
 接合部から溢れる白濁は泡立ち、素肌の上を滑り落ちてはソファを汚す。 
 安物でもないだろうにと俺が気にしても、当の本人は笑って構わないと戯れのようなキスを落とすだけ。
 胸に膝がつくほど身体を折り曲げられて、息つく間もなく内部(なか)を穿たれる。
 一方で思い出したかのように胸元に伸びた指先が、既に痛いほどに充血して尖った突起を擦り立てた。
 吐精して間もないというのに、隙間に取り残された自身の先端からは再び止め処ない雫が溢れている。
「ルイ……可愛いよ、ルイ――」
 彼の動きが徐々に早くなり、かと思うと焦らすように繋がりを浅くしては速度を落とす。触れてほしい一点を敢えて透かして、緩やかに円を描く腰。
「やめ……っそんな、焦らす、な……っ…」
 もどかしく内に燻る掻痒感に、背筋が戦慄く。身体がひとりでに先を追って、下肢があられもなく揺らめいた。
 震える歯の根を噛み締め、均整の取れたしなやかな彼の背にしがみつく。
 応えるように、再び彼は俺に口付ける。幾度か食むように口元を啄んでは、唐突に舌先を絡めとった。唾液を擦り合わせるような動きに、熱い吐息が綯い交ぜになる。
 嚥下しきれず、呼気と共にこぼれた唾液が、首筋へと伝って行く。
「ルイ……やっぱり君はいいね」
「ぃ……っあ……!」
 と、不意に彼は最奥を鋭く貫いた。
 屹立へと絡み付く襞を押し開き、先刻まで避けていた部分に昂ぶりを押し付ける。敏感な粘膜を執拗に掻き乱しては、これ以上ないくらいに腰を密着させる。
 たちまち込み上げた射精感に、俺は強く目を瞑った。無意識に彼の滑らかな肌へと爪を立てた。
「は……っ将、…っも…無理……っぁ、…――っ」
 直後、俺は堪え切れず熱を放った。我慢などろくにできなかった。
 ほとんど触れてもいない自身から飛散したそれは、彼の腹部までしとどに濡らした。
 一拍遅れて、彼も二度目の絶頂を迎える。熱い迸りが断続的に注ぎ込まれ、その脈動を感じるたびに、また心が酷く揺さぶられた。
 感極まったみたいに、胸の奥がじんとした。嬉しさとも寂しさともつかないせつなさがそこにあった。



continue...
2010.04.02