それも一つの 04
空港を後にした真っ赤な高級車は、どこに立ち寄ることもなくまっすぐ彼の自宅へと向かった。
地下の駐車場で降車する際「派手だな」とその車体を見遣ると、「母の趣味だよ」と揶揄めかして彼は小さく肩を竦めた。
つられて俺も少し笑った。
色々と弁えていたつもりでも、彼の見せた率直な反応には、正直「来なければ良かった」と思ったことも否めない。
それでも時間が経つにつれ、多少は気持ちにも余裕が戻っていた。
「相変わらず豪華な暮らしをしているらしいな」
俺は促されるまま、エレベーターに乗り込み、やがて最上階にある彼の部屋へと通された。
「勝手に用意されていたんだよ」
部屋も車も独断でね――。
「へぇ……」
そんな彼の言葉に耳を傾けながら、俺は広いリビングの中央に足を止めた。何気なく見渡せる範囲を一望すると、ややして目に留まった窓際へと歩み寄る。そして、
「ここから見える夜景も一流か」
半ば皮肉めかしてそう言うと、
「ああ、少なくとも今夜はそうかもしれないな。独りじゃないから」
まるで挨拶でもするかのように自然とそんな言葉が返ってきた。
相変わらず将人は将人なようだ。
(よく言う……)
思わず苦笑の混じった吐息が漏れる。
しかしそれもすぐに降参とばかりの笑みに変わった。
「ちょっと早いけど、ワインでいいかな」
「ああ、うん」
空港に着いたときには、既に夕刻が近い時間帯だった。
それから更に二時間近くが経過している。時節は十月下旬。既に外は暗くなっていた。
振り返ると、彼は楽しそうに笑っていた。
「コーヒーでもいいけど……そうなるとやっぱり、ルイの入れたものが飲みたからね」