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夏風 09*

「…腰」
 降らせるようにキスをしながら、片手を下方へと伸ばし、夏掛けの下で彼の衣服を下ろして行く。
 全て言葉にしなくても、それだけで彼は自ら腰を浮かせてその所作に合わせた。
 下着と一緒に抜き取ったそれを、先刻のシャツと同様床に放り、
「脚も開けよ、できるだけでいいから」
「……う、…」
「もっと」
「そ、んな……、話が違う…っ」
 促せば、一層羞恥に身を竦ませる彼の内腿を撫で上げる。
 そして、「せめてこれくらいは」と囁きながら結局手ずから開かせた。
「わっ……ちょ、待……っ」
「ごちゃごちゃ言ってると布団無しにするぜ」
「…そ、れはダメ、まだ無理」
 今更、とも思うところだが、河原は未だにこうだった。
 初めて肌を重ねた際、そこはこともあろうにリビングの床の上――だったりしたくせに。ことベッドの上でするとなると、彼は何故か一際気恥ずかしく感じるようだった。
(関係を実感すんのかね……)
 ぼんやり思って、俺は口端で微かに笑う。もちろん、彼に気づかれないように。
 寝室の電気は、間接照明が点いているだけだった。
「往生際の悪いヤツだな」
「そんなこと、言……、っあ……!」
 とか何とか言いながら、詰まるところ最後に折れるのはいつも俺の方で、それならと上掛けの下で手を動かすと、今度は咄嗟に腰を引かれる。
 まぁ、これに関しては逃げ場なんて無いに等しいので、構わず追い詰めて彼の屹立に指を絡めた。
 開かせた脚は軽く膝で押さえて固定させ、上体を伏せると再度彼の胸元に唇を寄せる。
 時折思い出したように鬱血痕を残しながら、そのくせ擽るように掠めるだけの距離で徐々に位置を下げ、
「ふ……っ」
 やがてたどり着いた彼の屹立に、不意打ちめいた口付けを落とす。
 絡めていた指先は、特に動かすでもなく敢えて添えていただけだった。
 先端を舌先でなぞると、滲んでいた先走りが細い糸を引く。
 それを一気に口内に引き込むと、
「ん、んん……っ」
 途端彼の腰がシーツの上で波打った。
 が、伴って漏れた声は予想よりもずっと小さい。
 怪訝に思って上目に見遣れば、彼は俺が半ば布団にもぐるような格好になっているのを良いことに、自らの手でしっかり口元を押さえていた。
「お前……」
 まだわからないんだろうか。そう言う態度は俺を煽るだけだって。
「…! あ、えっ……!」
 俺は思い切ってかぶっていた布団を払いのけた。
 それが床に落ちるが早いか、彼の身体をひっくり返す。
 唾液と彼の先走りに濡れる口元を乱雑に拭いながら、片手でうつ伏せた彼の腰を少しだけ引き上げた。
 あまりに突然の事態だったからか、河原は殆ど動けなくなっていて、それを良いことに俺は彼の背に覆いかぶさるようにして影を落とす。
 そして彼とシーツとの間に手を入れると、再びその昂りに触れた。
「暮、し……、…やっ、あ……っ」
 さっきまで俺が咥えていた所為で、動かす手は存外滑らかに滑る。
 彼がようやく抗議しようと振り返りかけるが、俺はそれすら阻むように手の動きを速めた。
 そうしながら、他方の手指を俺は自分で口内に含み、唾液を十分絡めたそれを彼の後ろへと忍ばせる。
「…ま…待って、…こんな……っ、う、あ……!」
 制しようとする彼の声も聞かず、触れた入口を何度も撫でつけると、やがて唾液が馴染んだのか、時折微かな水音がそれに伴ってくる。
 円を描くようにして縁を辿ると、焦れたように彼の下肢が震えた。
 彼の背に重ねた胸元から、鼓動の速さが伝わってきそうだと思う。
 俺は指先に力を込めて、彼が吐息すると同時にそれを内部へと差し入れた。



continue...
2009.12.18