それも一つの 01
【Side:ルイ】
本当は知っているだろう。
俺がどう思っているかってことを。
知っていて気付かないふりをしていただろう。
俺が何を求めているかってことを。
だけどそれもお互い様かもしれないな。
貴方がどう言うつもりで日々を過ごしていたかってこと、俺も全部知っていて気付かないふりをしていたんだから。
「やあ、いまどこにいると思う?」
と、冗談めかし笑ったら、予想以上に貴方は言葉に詰まってしまった。
それは要するに、心から歓迎されてはいないと言うこと――そう感じた俺は、通話を終えた携帯をポケットに戻しながら、深い溜息をついた。
「もうとっくに着いてるよ。そっちはまだ着かないの?」
「ちょっと買い物したいから、待ち合わせは一時間後ね」
「て言うか、タクシー乗り場ってどこよ?」
(……早口だな……)
周囲を飛び交っているのは、久々に聞く日本語だ。俺は何気なく周囲に視線を巡らせた。そこは日本のとある空港のロビーだった。
「いや、誤解しないでくれよ、ルイ。君が来てくれて嬉しいのは本音なんだ。ただ、余りに急なことだったから驚いてしまっただけで」
迎えに来てくれた彼――フルネームを見城将人と言う――の車の助手席で、俺は窓外を流れる見慣れない景色をぼんやり眺めていた。
彼の反応からある程度の心情を察した俺は、今更どう言われてもすぐにいつものようには笑えない。
ただ、運転する彼の横顔を、時折窓ガラス越しに見つめては、
「わかってるよ」
と、気の無い素振りで頷くだけ。
(だめだ、態度に出る……)
彼と顔を合わせたのは、およそ十一ヶ月ぶりだった。
それ自体は嬉しいことであるはずなのに、どうしても素直に喜べない。
自分の浅はかさが身に沁みて、居た堪れなさに溜息が出た。
俺は彼がアメリカにいた頃――詳細を言えば、彼が十一ヶ月ほど前に日本に発つまでの二年間――ずっと同じ家に住んでいた。
とは言っても、恋人だとか、血縁だとかそう言う関係ではない。
単に彼の家の空き部屋を貸して貰っていただけの、単なるルームメイトだ。もちろん家賃も払っていた。
08/12/30発行同人誌より再録です。