ピクリと震えた瞼を上げる。緩慢に瞬きながら、額にかかる髪を掻き上げる。徐々に意識が浮上してくるのに身を任せ、半ば無意識にため息をつくと、
「ん……」
ぼんやりと霞む景色に今一度瞑目してから、改めて目を開けた。
「――…?」
気だるげに瞬きを重ねて、視界に映ったものに視軸を合わせる。何気なく周囲を見渡して、そこがどこであるかを遅れて認識した。
「……え…」
刹那、千景は目を見張った。思わず声まで漏れたのは、そこが自分の思っていた場所ではなかったからだ。
そこは屋外でもなければ住み慣れた実家でもなく、単に先日から急遽自分の部屋となった月見荘の管理人室だった。
「な、え……?」
視線を巡らせ、再確認する一方で、千景は恐る恐る自分の身体に触れてみる。
着衣に乱れはなく、布団も肩まで綺麗にかけたままだった。
(夢……?)
感覚も息づかいもあんなにも鮮明で、未だ全身も独特な気だるさに包まれているというのに?
しかし、その割に思うような場所に思うような違和感もなく、千景は思わず片手で目を覆った。
「あれが夢とか……」
にわかには信じられない。
信じられないが、それ以外に答えはなさそうだ。
(しかもあいつが相手とか……)
次いで夢の中で自分が口にした名前を思い出し、更なる自己嫌悪にため息を重ねた。
数秒後、千景は逃げるように頭まで布団を引き上げた。そしてもう何も考えたくないとばかりに目を閉じた。
「っ……は?」
なのにその目をすぐまた見開く。直後、弾かれたように見たのは布団の中だった。
「……冗談だろっ……」
雨の日に、衣服が濡れてまとわりつくような不快感があった。そのことに今頃気がついた。
場所は下半身――下着の中だ。それが何を意味するのかは考えるまでもない。
(いったいどんだけ欲求不満だ……よりによってあんな夢でっ……)
その事実に一層打ちのめされて、千景は布団の中で独りぐちゃぐちゃと髪を掻き乱した。それから戦慄く身を隠すように、今度こそ完全に布団の中に潜り込んだ。