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三秒待てば 23*

続き
 いつの間に、と考える暇もなく、顕になった屹立に男の長い指が絡む。すでに張りつめていたそれを隠すことはできず、千景は居たたまれないように顔を背けた。
 男は構わず手を動かした。焦らすように煽るその動きはどこかぎこちなく、そのくせ拙いとも言いがたい微妙な手つきだった。
「んあっ……っ」
 胸の色づきを食む傍ら、下方で上下する指先が先端を掠めては離れる。そのたび滲み始めていた透明な滴が量を増し、溢れ出たそれが男の手を濡らした。必然と滑らかになる動きに、やがて微かにだが水音まで響き始める。
「……っ、あぁっ、待……っ」
 抑揚をつけて追い上げられるうち、頭の中が真っ白になっていく。比例して声も抑えられなくなり、刹那、腰の奥にわだかまる熱が一気に温度をあげた。
「っ…ーー!」
 びくびくと腰が戦慄き、腹部に白濁が飛散する。
 促されるまま、残滓もすべて吐き出すと、強張っていた身体から少しずつ力が抜けていった。詰めていた息が無意識に漏れて、固く閉じていた瞼も自然と弛緩する。
「は……」
 呼吸を整えるよう息をつき、千景はうっすらと目を開けた。ようやく少し頭が冷えて、再び意識が周囲に向いた。
「お前、誰……」
 改めて目を凝らし、かすれた声を絞りだす。依然として身体は動かなかったが、それだけはなんとか音になった。
 男は一瞬動きを止めた。しかし、反応と言えばそれだけで、次には再び身を伏せて、更に下方へと手を伸ばされた。
「っ、な……っ」
 ひやりとした感触に思わず身がすくむ。千景が放った液体を塗りつけるような、艶かしい感覚に知らず下肢が浮き上がった。触れる指先は会陰を辿り、間もなく探り当てた窪みをゆるゆると撫で付ける。
(まだ……する気、かよっ)
 爪先がゆっくりと縁をめくり、中心に別の指が押し当てられる。濡れたそれが無遠慮に奥へと進められるのに、千景は堪えるように目をすがめ、戦慄く唇に歯を立てた。
「っ、んん……っ」
 自分では動かせない脚を左右に開かれる。晒された狭間に埋める指が増える。馴染ませるように蠢くそれが、あられもない音を伴って敏感な襞を擦り上げてくる。
「っ……ふっ……」
 必死に口を閉ざしていても、触れられる場所によっては一気に高い声を上げそうになる。鼻に抜ける吐息は甘く、目端が再び赤く染まるまでに時間はかからなかった。釣られるように、男の息づかいも荒く忙しないものになっていく。
「ん、ぁっ……」
 指が引き抜かれるのに合わせて、心もとない声が漏れる。名残惜しいようにひくつくそこに、熱い昂りがあてがわれた。
 ぐち、と微かな音がして、千景は咄嗟に息を呑む。そのくせ、どこか躊躇うような、あるいは敢えてもったいつけるような間を置かれ、不本意にも物欲しそうに身体が揺れた。
「っ…ーー!」
 直後、男は一気に腰を進めた。抱えた脚を引き寄せるようにしながら内壁を割り開き、最奥まで穿つとより密着させるように接合部を擦り合わせた。
「い……っ、ぁあっ……!」
 千景は悲鳴染みた声を上げ、弾かれたように喉を反らした。
 焦らすように浅くまで引き抜かれ、感触を確かめるようにゆっくりと奥まで戻される。淫猥な交接音が静謐な部屋に響き、動きが早くなるにつれてそこに肌がぶつかる音が増える。
「っ、あっ、あぁ……っ」
 規則的な律動に合わせ、堰を切ったようにあえかな声が止まらなくなる。
 男は片手で胸をまさぐりながら、一際激しく抽挿し、やがてこれ以上ない位に繋がりを深くした。そのまま幾度かひきつったように腰を押し付け、千景の中で熱を放つ。
「っ…、……!」
 体内に直接感じた迸りに、千景の身体がびくびくと震えた。ピンと伸びた爪先が小刻みに跳ねて、充血した粘膜がそのつもりもなく男のものを締め付けた。
「…っ……」
 余韻を味わうように密着させていた腰を、男が静かに引き離す。収縮を繰り返すそこから、遅れて泡立つ液体が溢れ落ちていくのがわかった。
(……あ……まさか)
 千景は気だるい思考の中、無言で身を起こす男の仕草を目で追った。依然として顔は見えないが、そこでふと頭を過ったのはある男の名前だった。
「お前、寒……早乙女?」
 それを口にした途端、男の肩が不自然に揺れた。
「ーー…」
 その反応に、千景も一瞬言葉に詰まった。
「っ……」
 男ははっとしたように顔を背けて立ち上がった。そして千景が何を言うより早く、逃げるようにその場から姿を消した。

12/31*2013

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