13...選ぶのは*
【Side:崎坂智也】
何て細い手首だと思う。
もともと痩せぎみと言うよりは痩せすぎな体型だと思ってたはいたが、ここまでとは思わなかった。
「悪いけど俺、華奢な人はタイプじゃないんですよ」
酷い言い草だと自覚しながら、耳元で囁く。
その一方で、煽るように柔らかな手つきで項を撫でた。
予想以上にか細い手首を戒めるには、片手で十分だった。
俺だって成田に比べれば細い方だったが、そこはこなしている仕事の違いだろうか、不意打ちとは言えこうまで簡単に押さえ込まれてしまうなんて絶対に有り得ない。
「た……タイプじゃないなら、どうしてこんなこと……」
「どうしてって、……別に」
しかも、カウンターにうつぶせた格好で動きを制限されて、にも関わらず彼からは抵抗しようと言う意志がまるで感じられなかった。
ともすれば、甘んじて受け入れるとでも言うような――。
そんな印象も相俟って、俺は返された問いにすぐには返答できなかった。
「……タイプじゃなくても、別にやることはできるだろ」
そしてそんな自分に相乗して苛立ち、俺は掴んでいた彼の手首を唐突に引き上げた。
「わっ……」
酷く一方的な事態の流れに、彼は戸惑いも顕に声を上げる。が、やはりこの場から逃げ出そうと言う気にはならないらしい。
俺は僅かに目を細め、真っ直ぐに据えた眼差しと顎先で、足もとに跪くよう促した。
「………え、あ……の」
「アンタ俺のこと好きだって言ったよな。だったら、俺のして欲しいことをして見せてよ。――いまここで」
俺の言動が何を示唆しているのか、遅ればせながらも理解したらしい彼は、
「……わ、わかった」
明らかに当惑の色を顔に浮かべながらも、殊の外素直に頷いた。
立ち位置を入れ替え、カウンターを背にして立つ俺の目の前で、彼が静かに膝を折る。床に直接膝立ちになり、おずおずと俺の腰に顔を近づける。
その一つ一つが酷く手探りめいて、俺の衣服へと触れる指先は緊張のあまり震えるほどだった。
(なんでそこまでできるんだよ)
見るからにしたことがないのは明らかだ。
おそらく彼は同性を相手にキスをしたことすら初めてで、下手をしたらいま自分が何をしようとしているのかさえ、はっきり理解できていないかもしれない。
だからと言って、何の手助けをする気にもなれないが、
「早くしろよ。ホントにその覚悟があるって言うなら」
いま自分が置かれている状況が、どういう物なのか気付かせる程度のことならしてやってもいい。
俺は焦れたように、背後のカウンターに添えていた片手を彼の側頭部へと触れさせた。
彼は漸く、肌蹴させた俺の性器を手に取り、躊躇いながらも唇を開いたところだった。
「――ほら」
ややして先端が彼の微かな吐息に触れると、俺はわざとらしいほど静かな声でその先を促した。
かと思うと、添えていた手に力を込めて、一気に限界まで深く銜えさせる。
「っぐ……! ん、んぅ……っ」
と、予想に違わず彼は双眸を見開いて、次には苦しさに強く目を閉じた。
その表情は、懸命に堪えているようで明らかに苦痛に歪んでいる。生理的な涙が目端に滲み、瞬く間に睫毛の際に珠を作る。
彼の温かな口内で、自身が徐々に熱を帯びると、彼に一層の負担を強いることは言うまでもない。
切なげに眉根を寄せて、何とか応えたいみたいな拙い舌の動きを感じはするものの、依然として彼はされるがままだった。
髪の毛を掴むようにして後頭部を抑え込み、時折浅く腰を引いては戻す。
即物的な刺激に容積を増した屹立は、濡れた喉奥を圧迫して彼を何度も咳き込ませた。
「こういうの、アンタ初めてでしょ……どうする、ちゃんと飲めんの。それとも顔にかけてあげようか」
敢えて抑えた声で囁くように問いかけると、涙に潤んだ瞳が漸く薄らと開かれる。
逆光の中で落とした視線に、見上げる彼の不安げな視線がゆるりと絡んだ。
continue...
by 雪ひろと
- 2008/09/20 (Sat)
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